夫婦の一方が、異性の愛人と不貞行為(浮気・不倫)をした場合、損害を被った配偶者は、貞操義務に違反した配偶者と異性の愛人に対して、貞操権侵害による精神的苦痛の慰謝料として、損害賠償を請求することができます。
不貞行為が異性の愛人の誘惑によるものか、自然の愛情によって生じたものかは関係なく、不貞行為自体に違法性があるとして慰謝料の請求を認めています。
これら民法の規定を根拠に、共同で不法行為をした配偶者と異性の愛人に対し、精神的苦痛を受けた配偶者は、慰謝料として損害賠償の請求をすることができます。
但し、夫婦関係が既に破綻している状態で、その後に配偶者が異性と性的関係を持った場合、愛人との不貞行為と、夫婦関係の破綻には因果関係は認められないので、「不貞行為」を理由に慰謝料の請求はできません。
これは別居中に限らず、同居中でも既に家庭内別居の状態であると客観的に判断されれば、破綻後の関係とされ、慰謝料の請求が認められない場合もあります。
また、不貞行為をした配偶者が、結婚をしていることを隠しており、異性の愛人も過失がなく結婚をしていることを知ることができなかった場合や、配偶者が愛人に対して暴力や、脅迫によって関係を持った場合なども、愛人に対しての慰謝料の請求は、難しいと思われます。
過去の判例でも責められるべきは貞操義務に違反した配偶者で、不貞行為の内容によっては、異性の愛人に責任は問えないという見解もみられます。
不貞行為の相手方(異性の愛人)に対する慰謝料の金額は、算定基準はなく、具体的に相場がいくらと決まっていません。慰謝料の金額は、不貞行為による損害の程度や個々の事情が考慮され決められます。
慰謝料の算定に考慮されるのは、被害を被った配偶者が受けた精神的苦痛の程度、不貞行為の発覚によって夫婦の婚姻関係が破綻したかどうか、年齢、結婚年数、不貞行為の期間・回数、どちらが不貞行為に積極的だったか、また異性の愛人の財力、社会的地位などを総合的に判断し、裁判官が金額を決定します。
離婚をしなくても不貞行為(浮気・不倫)の慰謝料の請求はできますが、離婚をした方が、慰謝料が高くなる傾向があるようです。過去の判例では50万円から400万円の間が多く、一般的には200万前後がもっとも多いようです。
精神的損害の賠償としての慰謝料ですので、請求自体はいくらでも構いませんが、あまりにも高額な慰謝料になりますと、話がこじれてしまい、支払われないこともありますし、裁判ではこの金額の根拠を問われます。
また愛人に支払い能力がなければ、例え裁判で支払命令が出たとしても、希望通りの支払いは望めない可能性が高いと思われます。
不貞行為の証拠がなくても、愛人が不貞行為を認めて慰謝料を支払ってくれれば、証拠は必要ありません。
しかし相手が不貞行為を認めず裁判で争うこととなれば、不貞行為の証拠はどうしても必要になります。裁判では証拠主義ですので、不貞行為の証拠が不十分な場合、憶測や推測ととらえられ、慰謝料の請求を棄却される場合も生じてしまいます。また、反対に愛人から名誉毀損で慰謝料を請求されてしまう可能性もあります。
自分で不貞の証拠を集め、慰謝料を求めるのは自由ですが、配偶者と異性の愛人の「性行為(肉体関係)を確認ないし、推認できる証拠」をつかむのは、現実問題として困難と思われます。
そのような場合は調査力のある探偵社・興信所に相談・依頼した方が良いと思われます。探偵社・興信所では裁判に必要な確かな「不貞の証拠」を集めてくれます。
訴訟の為には、愛人の現住所等・連絡先なども判明する必要があります。
不貞行為をした異性の愛人と直接話し合える場がもてるのでしたら、直接話し合って和解した方が良いと思われます。裁判をすると一定の時間がかかり、その間はお互いに精神的負担が大きくなります。
慰謝料の支払いについて話がまとまったら、必ず示談書(和解契約書)を作成し、両者署名捺印をして証拠として保有しておいて下さい。相手が示談書の作成を拒んだ場合は、一括で慰謝料を支払わせることをお勧めします。
愛人が話し合いに応じない場合や、こちらも相手の顔を見たくない場合は、内容証明郵便で慰謝料を請求をします。内容証明郵便は愛人に対して心理的プレッシャーを与えることができますが、相手にとっても証拠になりますので、くれぐれも嘘を書いたり、脅迫を行ってはいけません。内容証明の文面によっては、慰謝料の請求ができなくなる可能性もあります。できれば内容証明郵便の作成は法律家に依頼したほうが無難です。
差出人に法律家の名を入れておけば、相手にかなりのプレッシャーを与えられます。
内容証明郵便を送っても、今後も交際を続けたり、折り合いがつかなかった場合は、愛人の住所地の簡易裁判所で、調停を申し立てることになります。
調停で話し合いがまとまれば、調停調書が作成されます。調停調書は裁判の判決と同じ効力を持ちますので、相手が調停で決まったことを守らなければ、強制執行をすることも可能です。
調停が不調に終わったら、地方裁判所に訴訟を提起することになります。
但し、配偶者の不貞行為を理由とする離婚訴訟と、異性の愛人に対する慰謝料請求訴訟を併せて家庭裁判所に提起することもできます。
裁判では配偶者と異性の愛人の「性行為(肉体関係)を確認ないし、推認できる証拠」が
必ず必要になってきます。裁判になると、弁護士に依頼する費用など、それなりの費用が必要になり、時間的にも拘束されます。
夫婦間には特に離婚の原因はないのですが、双方の親の対立や、配偶者の親族との不仲から離婚に至るケースも少なくありません。典型的なのは、嫁・舅や姑の対立でしょうが、嫁と姑との関係がこじれたとしても、直接夫婦の問題とは言えません。しかし配偶者の両親と同居となれば、どうしても夫婦関係に影響を与える問題です。
但し、配偶者の両親・親族との不和は、性格の不一致と同様に、それだけの理由では離婚請求が認められません。妻、又は夫は両親・親族と自分の間を調整する義務があります。不和の解消の為の努力を怠る妻、又は夫からの離婚の請求は認められないということです。調停ではまず家庭円満の努力を要求されます。
妻が同居する夫の両親との不和を改善しようと努力しているのに、夫が間に入ってくれず無関心だったり、または両親に加担して妻に辛く当るなどという場合には、夫に婚姻破綻の責任がありますので、それを理由に離婚の請求ができます。
慰謝料の請求権は、不法行為による損害賠償請求権の性質を持ち、3年の時効となります。3年を経過したら、慰謝料の請求権は消滅してしまいます。時効期間の経過を防ぐ為にも、早めに慰謝料請求の調停申立をお勧めします。3年の時効期間内に権利を行使し、判決として確定すれば10年の時効期間となります。