離婚時に取り決めた養育費の支払いを、毎月確実に取り決め通り受取っている方は、全体の50%程も満たないようです。始めのうちは取り決め通り定期的に支払ってもらっていても、徐々に支払いが滞ってしまうことが多いようです。取り決め通り支払ってもらえない理由としては、養育費を支払う側がリストラにより失業した場合、再婚して新しい家庭ができた場合、またはお金はあるが、ただ単に支払おうとしない場合などが挙げられます。
離婚時に養育費を口約束だけで取り決めた場合、何の保障もなく、「言った、言わない」の争いになってしまうことが多々あります。トラブル防止の為、取り決めた事項は必ず離婚協議書にすることが必要です。
また離婚協議書に基づいて、法的根拠となる養育費の支払いを記載した公正証書を作成しておくと養育費の支払いが滞った時に、強制執行をすることも可能です。
家庭裁判所の調停を申し立てて、取り決めた内容を「調停調書」という書類にしておく方法も良いでしょう。口約束だけでは、養育費の差し押さえの根拠がない為、強制的に支払いを履行させることは難しいでしょう。
養育費の支払いが滞ったら、まずは電話、手紙なので協議、催促をしましょう。
それでも応じない場合は、内容証明郵便で支払いを催促します。内容証明郵便とは、いつ(手紙を発送した日付)、だれが、だれに対して、どんな内容の手紙を送ったのかを国家機関である郵政省が証明してくれる手紙です。簡単に言いますと手紙で証拠を残す方法です。
法的拘束力はないのですが、相手に対する心理的効果はかなりあります。
養育費の支払いを家庭裁判所の調停・審判で決定しても、支払いが滞ることがあります。そのような場合は家庭裁判所に申し立てることによって、相手方に「履行勧告」を出してもらえることができます。履行勧告には強制力や制裁はありませんが、一応の成果をあげているようです。
履行勧告でも支払いに応じない者に対しては、「履行命令」を出す方法もあります。こちらも履行勧告と同様、家庭裁判所の申し立てを行います。履行命令は一定の期限を定めて、義務の実行するように命令する方法です。正当な理由無く履行命令に従わない場合は10万円以下の過料の処せられます。
家庭裁判所による「履行勧告」「履行命令」などにもよっても養育費を支払わない場合には、相手方の財産を差し押さえる「強制執行手続き」をとることも可能です。但し養育費の支払いについて定めた債務名義(公正証書、調停調書・審判・判決・裁判上の和解調書等)が必要となり、公正証書の場合は「養育費の支払いが不払いになったら、強制執行をしてもよい」と一文が入っていなければなりません。
また民事執行法の改正により、将来の養育費分もまとめて差し押さえできるようになりました。
今までは取り決めた支払期限が過ぎた分の養育費しか強制執行の手続きはできませんでした。つまり、3ヶ月分滞納したら、その滞納した3ヶ月分のみしか強制執行ができず、毎月、毎月強制執行の手続きしなければいけなかったのです。
手続きの費用も3000円の収入印紙代などを合わせて10000円弱実費がかかり、3~5万円の養育費の対して、割が合わないのが実情でした。そこで、毎月差し押さえの手続きをしないで、2年間我慢して、まとめて差し押さえ手続きをするといった方法しかありませんでした。
今回の改正では一度でも養育費の支払いを怠ったときは、将来の養育費の支払い分についても1回の手続きで強制執行ができる特例が設けられました。
この特例が適用となるのは下記の要件が対象となります。
・夫婦間の協力および扶助の義務に関する請求権
・婚姻から生ずる費用の分担の義務に関する請求権
・離婚等の場合における子の監護・義務に関する請求権
・親に対する扶養量など一定の親族間における扶養の義務に関する請求権
また差し押さえを受ける給料の額についても特例が設けられました。
今までは給料(ボーナスや家賃収入も含む)の差し押さえは、税金などを差し引いた手取り金額が28万円を超える場合は、その金額から21万円を引いた金額、税金などを差し引いた手取り金額が28万円以下の場合は、手取り金額の4分の1しか差し押さえることができませんでした。それが特例で給料の2分の1に相当する部分について差し押さえができるようになりました。
養育費の支払いが滞った場合の対策を述べてきましたが、養育費は通常の債務とは違い、子供を養育する為の必要費用です。法律だけに頼らず、お互いが誠意をもって率直に話し合われるのが、一番良い解決方法なのではないでしょうか。